介護にまつわるあれこれ23:「看多機」って何のこと?

皆さんは「看多機(かんたき)」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
実は、介護保険サービスのひとつである「看護小規模多機能型居宅介護」の略称として、最近広まりつつある言葉なのですが、訪問介護や訪問看護、あるいはデイサービスやショートステイといったサービスと比べると、名称自体もその内容も、まだあまり広く知られていないのではないかと思います。
しかし、近年そしてこれからの高齢者増加や在宅介護の多様なニーズに対応しうる新たな形態の介護サービスとして、今、要注目のサービスとなっています。
今回は、この看多機について解説していきます。

1.看護小規模多機能型居宅介護と小規模多機能型居宅介護

2000年に始まった介護保険制度ですが、従来の介護保険サービスでは、在宅介護を受ける要介護高齢者に対するサービスとしては、自宅に来てもらう「訪問」、施設に通う日帰りの「通所」、短期間施設に宿泊する「短期入所」と、それぞれが単独のサービスとして提供される形が基本となっています。
必要に応じて、複数の介護保険サービスを併用することももちろん可能ですが、その場合はサービスごとにそれぞれ契約をする必要があり、サービスごとに異なる事業所・スタッフにより介護を受けるというのが基本形でした。
しかしながら在宅における要介護高齢者は年々増加し、それとともにその要介護度やニーズもより幅広いものとなっていきます。
そういったニーズに対応し、多様な在宅介護サービスを一体的に提供するサービスとして、まず2006年に創設されたのが「小規模多機能型居宅介護(小多機)」です。

●小規模多機能型居宅介護
利用者の心身の状況や置かれている環境に応じて、利用者の選択に基づき、訪問・通所・短期入所のサービスを組み合わせて利用できる地域密着型(市町村単位)のサービス。
1事業所の登録定員は29名以下と小規模で、「通所」の利用定員はさらに登録定員の2分の1~15名、「短期入所」の利用定員は通所の利用定員の3分の1~9名までと、住み慣れた地域のアットホームな環境でサービスを受けることができる。
「小多機」の、従来の在宅サービスと異なる特徴としては、

①サービス費用が月ごとの定額となっている(宿泊費や食費は別途自費となる)
②複数のサービスを組み合わせて利用することができ、当日変更などにも臨機応変に対応が可能
③一つの事業所で複数のサービスが提供されるため、スタッフや利用者が共通しており情報共有や交流が図りやすい

といった点が挙げられ、中重度の介護状態になっても在宅での生活ができるだけ続けられるよう、サービス面・経済面などが配慮された内容となっています。
そして、この「小多機」に「訪問看護」サービスが加わったのが、「看護小規模多機能型居宅介護(看多機)」です。

●看護小規模多機能型居宅介護
小多機に比べ、より医療的ニーズの高い在宅要介護者への対応を可能にするため、2012年4月に創設。
「訪問看護」「訪問介護」「通所」「短期入所」のサービスを組み合わせて利用でき、多機能型サービスならではの①~③の特徴はそのままに、さらに医療行為も含めた多様なサービスを24時間365日対応で提供することが可能。

2.看多機は幅広い利用者のニーズに対応

従来、在宅生活を送る要介護者をケアする在宅介護サービスと言うと、介護は必要なものの状態が落ち着いている高齢者の生活の一部を介護する、というなんとなくのイメージが強かったように思います。
しかし近年では、在宅介護と言ってもその具体的なニーズは以下のように多岐にわたっており、看多機はこういった、従来では在宅でのケアが難しかったようなケースやニーズに対応できるサービスとして、注目されつつあるのです。

〇退院後の在宅生活への移行を支援
本人の介護はもちろん、家族が必要な介護や医療処置の習得などにあたり、訪問による指導だけではなく、必要に応じて短期入所を利用して体験の機会を確保するなど、多機能型サービスならではの支援でスムーズな在宅復帰をサポートすることができます。

〇がん末期等の看取り期の支援
住み慣れた自宅で最期までその人らしく過ごせるよう支援するため、主治医と連携してさまざまな医療処置にも対応可能です。

〇病状が不安定な時期における在宅生活の継続支援
従来では入院となっていたような病状等でも、24時間対応による夜間も含めた訪問や、幅広い医療行為に対応できるため、在宅での生活を続けられるケースがより多くなっています。

〇家族に対するレスパイトケアや相談対応による心身の負担軽減
従来の単体サービスでは、たとえば訪問サービスを主に利用する重度の要介護者や医療的ニーズの高い利用者の家族にとって、レスパイトケアのためにふだん利用していない短期入所先を確保することは簡単ではありませんでしたが、看多機であれば、必要に応じて臨機応変にサービスを利用でき、また重度の要介護状態や医療処置にも対応することが可能です。

実際に、2020年の実態調査でも、看多機の利用者の62.5%が要介護3~5であるとの結果が示されており、また全体の利用者数も年々増加しています。
全てのサービスが1つの事業所により一体的に提供されるため、どのサービスを利用してもなじみのスタッフによる一貫したケアを受けることができるというのも、大きなメリットであるかと思います。

3.サテライト型事業所って何?

看多機や小多機の事業所名に「サテライト型」と表記されているのを見たことがある方もいるかもしれません。
看多機および小多機は、介護保険における「地域密着型サービス」であり、市町村が指定・監督を行っています。
24時間365日対応型のサービスであることなどからも、自宅に近い事業所を利用するような制度となっており、基本的には日常生活圏域(30分以内に必要なサービスが提供される範囲)ごとに必要なサービス事業所が設置されることが目安となっています。
しかし、特に地方の過疎地域などでは、サービスに対するニーズはあっても、人員確保の問題などにより事業所の設置が難しいこともあります。
そこで、1つの事業所が、車で20分圏内のエリアにいわゆる支部となる事業所(=サテライト型事業所)を設置し、本体事業所と連携してサービスを提供することにより、より広域で、より多くの人にサービスを利用してもらうことが可能となります。
もちろん、サテライト型事業所の設置にあたっては法令による以下のような基準が定められており、本体事業所であってもサテライト型事業所であっても、同様のサービスが受けられることが前提とされています。

【サテライト型事業所の主な基準等】
▪本体事業所に事業開始1年以上の実績があること
▪本体事業所1に対するサテライト型事業所は最大2か所まで
▪本体事業所とサテライト型事業所との距離は、車移動でおおむね20分未満であること
▪サテライト型事業所においても、訪問・通所・短期入所の機能は必要
※ただし、サテライト型の利用者が本体事業所に宿泊することは可能 ※本体事業所の訪問スタッフが、サテライト型の利用者を訪問することも可能
この機会に、お住まいの地域ではどこにどのような看多機や小多機があるのか、一度確認してみるのもよいかもしれません。

これまであまり聞いたことのない介護サービスとも言える「看多機」でしたが、今後もさらに事業者数は増えていく見込みです。
これからの在宅介護においてキーとなるサービスのひとつになっていくのではないかと思います。

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