介護保険制度の基礎知識3:要介護認定とは

介護保険制度による介護支援サービスを利用するために必須となる「要介護認定」ですが、具体的にはどのような基準で審査判定されているものなのでしょうか。
ここでは、認定調査の具体的な項目や、認定結果である「要介護度」の具体的な区分について説明していきます。

1.要介護認定と要介護度

要介護認定とは、介護保険制度による公的サービスを受けるにあたって必須となる審査判定であり、介護サービスの必要度である「要介護度」(どれくらい、介護サービスを行う必要があるか)を判断するものになります。
要介護度はあくまでも、その方にどれくらい介護サービスを行う必要があるかの度合いを示すものになりますので、その方の病気の重さ(重症度)と要介護度の高さは、必ずしも一致しない場合があるとされています。

2.要介護認定の基準

要介護認定は、公的介護保険の給付額と結びつくため、全国一律に客観的に認定が行われるよう、調査項目や判定基準が法令によって定められています。
認定調査員による訪問調査や主治医の意見書によって、指定された調査項目が網羅されるようになっており、一次判定はその基本調査項目の結果をコンピューター入力していくことによって自動で判定されるのです。
では、基本調査項目にはどのようなものがあるのでしょうか。
要介護認定では、介護の種類が次の5つの分野に分類されているのですが、それぞれに決められた複数の調査項目があります。

・直接生活介助…食事、入浴、排泄などの介護
調査項目の例:食事摂取について ①介助されていない ②見守り等 ③一部介助 ④全介助
洗顔について ①介助されていない ②一部介助 ③全介助

・間接生活介助…洗濯、掃除などの家事援助
調査項目の例:買い物について ①できる ②見守り等 ③一部介助 ④全介助
薬の内服 ①自立 ②一部介助 ③全介助

・問題行動関連行為…徘徊に対する探索、不潔な行為に対する後始末など
調査項目の例:徘徊について ①ない ②ときどきある ③ある
物を壊したり、衣類を破いたりすることが ①ない ②ときどきある ③ある

・機能訓練関連行為…歩行訓練、日常生活訓練等の機能訓練(リハビリ)
調査項目の例:歩行が ①つかまらないでできる ②何かにつかまればできる ③できない
移動について ①介助されていない ②見守り等 ③一部介助 ④全介助

・医療関連行為…輸液の管理、じょくそう(床ずれ)の処置などの診療の補助
(調査では過去14日間に受けた医療行為や処置の有無について確認される)

このような70以上にわたる調査項目の調査結果がコンピューターに入力されるわけですが、この、コンピューターによる自動判定で算出されているのは、「介護の手間をあらわすものさしとしての時間」である「要介護認定等基準時間」というものです。
一次判定では5つの分野それぞれに算出されたこの基準時間の合計がどのくらいかによって、介護の必要度合いが判定される、というしくみになっています。
なお、この基準時間は介護行為で実際にかかる時間をあらわしたものではなく、また認定後に受けられる介護サービスの実際の合計時間数を示しているわけでもありません。
「時間」という名前がついていますが、あくまでも判定用の数値であると捉えるとわかりやすいかと思います。
ちなみになぜ、医療行為の有無や択一式の調査結果から基準時間が算出できるのかというと、あらかじめ介護老人福祉施設等に入所する高齢者約3,500人について、どのような介護サービスがどのくらいの時間をかけて行われたかを48時間にわたって調べた結果を集計した「1分間タイムスタディ・データ」と呼ばれるデータがあり、これを利用してコンピューターが基準時間を計算しているのです。
こうして推計された一次判定結果は、複数の保健医療福祉の学識経験者で構成された「介護認定審査会」において主治医の意見書や痴呆性高齢者の指標が加味され、最終判定である二次判定が行われることになります。

3.要介護度の分類とADL(日常生活動作)

調査判定を経て通知される認定の結果は、「要介護認定」「要支援認定」「自立(非該当)」の3種類のいずれかになります。
さら要介護は1~5、要支援の場合は1また2に細分化して区分されて通知されます。
先ほど説明した「要介護認定等基準時間」による分類は下の表の通りなのですが、これだと実際どのような状態の方がどの区分に該当するかはまったくわからないと言ってもよいほどです。

自立
(非該当)
要介護認定等基準時間が25分未満
要支援1 要介護認定等基準時間が25分以上32分未満またはこれに相当する状態
要支援2
要介護1
要介護認定等基準時間が32分以上50分未満またはこれに相当する状態
要介護2 要介護認定等基準時間が50分以上70分未満またはこれに相当する状態
要介護3 要介護認定等基準時間が70分以上90分未満またはこれに相当する状態
要介護4 要介護認定等基準時間が90分以上110分未満またはこれに相当する状態
要介護5 要介護認定等基準時間が110分以上またはこれに相当する状態

そこで、それぞれ具体的にはどのような状態がどの区分に該当するのかと言うと、厚生労働省からも実態像は示されていて、おおむね以下のような状態と記載されています。
・自立(非該当)…歩行や起き上がりなどの日常生活上の基本的動作を自分で行うことが可能であり、かつ、薬の内服、電話の利用などの手段的日常生活動作を行う能力もある状態
・要支援状態…日常生活上の基本動作については、ほぼ自分で行うことが可能であるが、日常生活動作の介助や現在の状態の防止により要介護状態となることの予防に資するよう手段的日常生活動作について何らかの支援を要する状態
・要介護状態…日常生活上の基本的動作においても、自分で行うことが困難であり、何らかの介護を要する状態

ここに出てくる「日常生活動作」という言葉ですが、これがこの説明文をより分かりやすくするためのキーワードになりますので、少し詳しく解説していきます。
「日常生活動作(ADL:Activities of Daily Living)」とは、人が日常生活を送るために最低限必要な日常的に行う動作のことです。
医療や介護の現場では、一般的に英語の頭文字をとってADL(そのままエーディーエルと読みます)と言われて以前から使われている用語であり、次の2つに分けられます。

▶基本的日常生活動作(BADL:basic ADL)
日常生活に必要な行為そのものの動作のことで、「起居・移乗・移動・食事・更衣・排泄・入浴・整容」の8つの動作があります。
上に記載した厚生労働省の説明文では「日常生活上の基本的動作」と言われている部分のことです。
▶手段的日常生活動作(IADL:instrumental ADL)
BADLの次の段階である、「掃除・料理・洗濯・買い物などの家事や交通機関の利用、電話対応などのコミュニケーション、スケジュール調整、服薬管理、金銭管理、趣味」などのより複雑な日常生活動作のことを言います。

この「ADL」という言葉の意味を踏まえ、該当部分を置き換えて先ほどの説明文を読み直してみると、だいぶわかりやすくなるのではないでしょうか。
要介護認定が「自立(非該当)」であれば、すべてのADLが自立しており、介護サービスなしに自力で日常生活を送ることができる状態、と判断されたということになります。
一方、「要支援認定」では、一部のADLに介護とまではいかない見守りや手助け等の支援が必要ではあるものの、ほぼ自立して日常生活を送ることができる状態、と言うことができます。
要支援の方が受けられる公的サービスの位置づけが「介護予防サービス」という名称であることからも、該当するのは支援や機能訓練(リハビリ)等のサービスを受けることによってADLの機能改善や維持の可能性が大きく、要介護状態への移行を予防することが期待できる場合、とされています。

・要支援1…ADLはほぼ自立しているが、今後要介護状態になることを予防するために支援を受ける必要がある状態
・要支援2…要支援1の状態からわずかにIADLが低下し、何らかの支援が必要な状態、かつ心身の状態が安定しており介護予防サービスの利用によりADLの機能改善や維持が期待できる状態

これが「要介護認定」となると、何らかのADLにおいて自立して行うのは難しい状態がみられ、その状態に応じた介護が必要であると判断された状態、ということになります。
これには単に身体的な機能低下や麻痺などで介護が必要となる場合だけでなく、認知機能や思考力の低下・障害に伴いADLが低下して介護が必要な場合も含まれます。
特に要介護1は、要介護認定等基準時間では要支援2と同じ区分となりますが、要支援認定者を対象とする介護予防サービスを、ある程度長期間安定して受けられる心身の状態であるかどうかで、判定が分かれることになるのが要点です。

・要介護1…要支援2の状態から、IADLがさらに低下し、部分的な介護が必要となる状態
(要支援2と比べ心身の状態が不安定、もしくは認知機能の低下等により介護予防への理解が困難である状態)
・要介護2…要介護1の状態に加え、BADLについても部分的な介護が必要となる状態
・要介護3…要介護2の状態と比較して、BADL・IADL両方の観点からも著しくADLが低下し、ほぼ全面的な介護が必要となる状態
・要介護4…要介護3の状態に加え、さらに動作能力が低下し、介護なしには日常生活を営むことが困難となる状態
・要介護5…要介護4の状態よりさらに動作能力が低下し、介護なしには日常生活を営むことがほぼ不可能な状態

要介護(要支援)認定の通知を受けたら、要介護(要支援)度とそれぞれの希望やニーズに合わせた介護保険サービスを選んで利用していくことになります。

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