介護にまつわるあれこれ24:認知症と介護

高齢化の進む日本では、高齢者の増加とともに認知症高齢者も増えています。
2012年の時点では65歳以上の7人に1人程度(約462万人)とされていた認知症高齢者ですが、2025年にはおよそ5人に1人(約700万人)となると予測されており、今後はますます、認知症を持つ要介護・要支援高齢者への適切なケアや支援への取り組みが重要と考えられています。
今回は、認知症とその介護に関して、ポイントを解説していきます。

1.認知症とは

認知症とは、「いったんは正常に発達した脳の認知機能が、病気や障害などさまざまな後天的原因により持続的に低下し、日常生活や社会生活に支障をきたすようになった状態」を言います。
人は年齢を重ねるほど認知症になりやすく、また誰もがなりうる病気です。
そして残念ながら、根本的な治療法や治療薬は現時点では見つかっておらず、いったん発症すればその後は生涯にわたり付き合っていかなければなりません。
これからさらに高齢化の進む中においては、一人ひとりが認知症への正しい理解を深め、認知症になっても希望を持ってその人らしく日常生活を過ごしていく、社会全体が認知症の人とともに暮らしていくという「共生」の意識を持つことが重要とされています。
認知症には、その原因となる病気等により、いくつかの種類があります。

1)アルツハイマー型認知症
認知症の中で最も患者数が多く、全体の7割近くにのぼります。
脳の神経細胞が変性して脳の一部が委縮していく過程で発症し、ゆっくりとですが進行していきます。
症状としては記憶障害(物忘れ)から始まることが多いとされています。

2)血管性認知症
脳梗塞や脳出血などの脳血管障害と呼ばれる疾患により、脳の一部の神経組織に酸素や栄養が行き渡らなくなったことにより発症し、認知症全体の2割程度を占めます。
障害された脳の部位によって症状が異なるため、部分的に認知機能が保たれる「まだら認知症」の状態が見られたり、身体に麻痺の症状が見られたりというのが血管性認知症の特徴になります。
新たな血管障害が起こらなければ、症状に大きな変化(進行)はみられずに経過します。

3)レビー小体型認知症
脳神経にたんぱく質のかたまりの一種であるレビー小体がたまって神経細胞を破壊してしまうことで発症し、他の認知症に比べると進行が早いという特徴があります。
症状としては、記憶障害(物忘れ)は比較的軽度であることが多い一方で、実際には見えないものが見える「幻視」や、起きていない出来事を起きたと思い込む「妄想」、手足が震える、歩幅が小刻みになって転びやすくなるなどのいわゆる「パーキンソン症状」などがよく見られますが、どの症状から出現するかは個人差があります。

4)前頭側頭型認知症
脳の前頭葉と側頭葉に委縮が見られる認知症で、言葉が出にくくなる「言語障害」や同じ行動パターンを繰り返す「行動障害」などの症状が見られます。
また、感情の抑制が効かずに攻撃的になったり、自分本位になり社会のルールが守れなくなるなど、人格が変わったかのような印象をもたらす言動の変化が、症状として現れることもあります。

2.認知症の症状にはどんなものがあるの?

認知症の症状は、脳の機能低下によって直接起こる「中核症状」と、それに身体的・心理的・社会的な影響や要因が加わって起こる周辺症状である「行動・心理症状」の2つに大別することができます。 1)中核症状 ●記憶障害(物忘れ) ●見当識障害…日時や出来事の前後関係がわからなくなる、慣れた場所で迷ってしまう など ●理解・判断力の低下…状況や内容説明が理解できない、日常的な物事の判断ができない ●実行機能障害…家事や身の回りのことができなくなる・やり方がわからなくなる など ●言語障害(失語)…言葉が音として聞こえ意味や話が理解できない、自分の気持ちを言葉で表出できない ●失行…運動機能には問題がないのに日常的な生活動作など今までできていた動作が行えない ●失認…視力には問題がないのに、目に見える物が情報として認識できない
2)行動・心理症状(BPSD:Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia) ●不安・焦り…一人になると怖がったり寂しがったりする、落ち着かない ●抑うつ…ふさぎこんで元気がない、意欲や興味の低下 ●妄想…自分の物を誰かに盗まれたなど、実際には起きていない出来事を起きたと思い込む ●幻視(幻覚)…実際には見えないものが見える ●徘徊…どこに行くでもなく歩き回る ●暴言・暴力・攻撃性…怒りっぽくなる、些細なことで腹を立てる ●睡眠障害…昼夜逆転や不眠   など
どの症状がどの段階でどの程度みられるかは、認知症の種類や個人差によってさまざまです。
なお、これらの症状に対しては薬物療法や心理療法などの治療法があり、症状によっては出現を抑えたり、進行を遅らせたりすることができるものもあります。
また、生活機能の維持向上を目的としたリハビリテーション(作業訓練)も行われています。

3.軽度認知障害(MCI)と認知症予防

「軽度認知障害(MCI:Mild Cognitive Impairment)」は、日常生活や社会生活に支障をきたすことはないため認知症とは診断できないものの、記憶力などの低下が見られる、言わば正常と認知症との中間とも言える状態のことを指します。
MCIの約10~15%が1年以内に、約半数が5年以内に認知症に移行すると言われていますが、すべてのMCIが認知症になるわけではなく、この段階から「認知症予防」に取り組むことで、認知症の発症や進行を遅らせることが期待されています。
認知症における「予防」とは、認知症にならないという意味ではなく、認知症になるのを遅らせる、あるいは認知症になっても進行を緩やかにするという意味での活動や取り組みのことを言います。
アルツハイマー型認知症や血管性認知症は生活習慣病(高血圧、糖尿病、脂質異常症など)との関連があるとされており、食生活や運動習慣など、日頃の生活管理が認知症のリスクを下げると考えられています。
特に運動(身体活動)は、実際に認知症の発症率を低下させることがこれまで多くの研究からも報告されており、もっとも取り組むべき予防法のひとつと言えるでしょう。
適度な運動と言っても特別なことをする必要はなく、家事で身体を動かしたり、テレビを見ながらストレッチをする、散歩に出かけるなどで十分です。
また、ストレスや不安が強いと認知症のリスクが高まると言われています。
良質な睡眠を十分に摂る、余暇や趣味をリラックスして楽しむなど、日々を楽しんでポジティブに過ごすことも認知症予防として大切です。
このほかに、バランスの良い食事で肥満や生活習慣病を予防・改善するなども重要になります。

4.認知症かも?と思ったら

認知症は早期発見や早期対応がとても重要となる病気です。
早めに診断を受け治療を開始すれば、認知症の進行をより遅らせることにもつながります。
また、認知症に似た症状がみられる認知症以外の身体的疾患も複数ありますので、その場合はそれぞれに適切な治療を受けることで回復に至る場合もあります。
自分、または家族など周りの人でも認知症かも?と気になる症状が少しでもあったら、早めに専門医を受診するようにしましょう。
認知症専門医は、かかりつけ医や地域包括支援センターなどから紹介してもらうことも可能です。
かかりつけ医が特にないという方などは、地域包括支援センターでまずは相談してみるとよいかと思います。
また、実際に認知症もしくはMCIと診断されると、本人はもとより家族も、不安・混乱・戸惑いなどといった心境に陥ることは珍しくはありません。
これは認知症と診断された患者やその家族のだれもが経験することであり、主治医やケアスタッフなどの専門家や地域の支援を受けながら、認知症や自身の状況について理解し、徐々に受け入れて生活していくことが必要となります。
認知症を受け入れ、不安を乗り越えて前向きに生活できるための心理面・生活面における支援事業の一環として、認知症患者自身が相談に応じる「ピアサポート活動」や患者どうしの交流会の実施なども各地域で推進されています。

5.認知症の介護のポイント

では、認知症の家族を介護することになったら、どのように対応するのがよいのでしょうか。
最も大切なのは、認知症について正しい知識を持ったうえで、その人を受け入れ尊重する、という基本的な姿勢です。
症状が進行してくると、介護する側にとってもショックなことやイライラしてしまうような場面もあるかもしれませんが、物忘れをはじめ、認知症による症状や言動は責めないようにしましょう。
認知症では「感情」に関しては末期まで障害があまり見られず、感情の記憶も残ると言われています。介護者に責められたり怒られて感じる悲しみや不安などの負の感情が本人の中に残り、ストレスや症状の進行につながってしまうことも考えられます。
本人ができるだけ不安なく穏やかに過ごせるよう、周囲の状況や生活環境を整えることも大切です。
また、本人の能力をよく把握し、自分でできる部分は極力自力で行ってもらい、援助が必要なところだけを支援・介護することが、本人の持っている能力をできるだけ長く維持することにつながります。
そして認知症にかかわらず、介護全般に言えることですが、家族だけで抱えず、外部サービスなどを上手に活用しながら、周囲と協力して介護を行っていきましょう。
介護保険サービスにおいては、要介護(要支援)認定を受ければ他の高齢者同様にサービスを利用することがもちろん可能ですが、対象を認知症に特化した以下のようなサービスもあります。

●認知症対応型通所介護〈認知デイ〉サービス
認知症と診断された要介護・要支援の方が対象のデイサービスです。
サービス内容は基本的には通常のデイサービスと同様ですが、認知症の方に特化した専門的なケアや対応が可能であり、地域密着型の比較小規模なサービスとなります。
なお要支援認定の場合は「介護予防認知症対応型通所介護」として利用できます。

●認知症対応型共同生活介護〈グループホーム〉
認知症と診断された方が自宅からグループホームへと移り住み、専門的なケアを受けながら共同生活を行うサービスです。
5~9人の少人数の利用者と生活を共にし、食事の支度や掃除などの家事を介護職員と共同で行います(要支援認定の場合は「介護予防認知症対応型共同生活介護」として利用できます)。
ホームは住宅地など閑静な場所に位置し、家庭的な雰囲気の中で落ち着いた生活を送ることにより、認知症の進行を緩やかにし、個々の能力に応じて自立した日常生活を営めるよう援助を受けることができます。
市町村が指定・監督を行う地域密着型のサービスになるので、住み慣れた地域を離れることなく、地域との交流も保ちながら生活を続けることが可能となっています。

これから先、認知症はより身近で、だれにでも起こりうる病気として、正しい知識と理解、そして適切な支援やケアがますます必要不可欠となっていきます。
私たち一人ひとりが、少しずつでも理解を深め、自身や家族が認知症となった場合だけでなく、社会の中の認知症の方に対しても、その人らしい生活が続けられるよう見守り、支援する意識が拡がっていく世の中になることが期待されています。

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