介護にまつわるあれこれ13:介護予防・日常生活支援総合事業とは

介護保険制度における介護サービスは、申請して要介護(または要支援)認定を受けた人が、その要介護度(要支援度)に応じて受けることができますが、高齢者の中には、この介護保険サービスの対象には該当しない人も大勢います。
そういった、主に要介護認定で「自立(非該当)」に区分されるような高齢者の方々にも、実は利用できる公的なサービスがあり、それが「介護予防・日常生活支援総合事業」と呼ばれる地域支援事業になります。
今回はこの総合事業サービスについて、解説していきます。

1.介護予防・日常生活支援総合事業とは

「介護予防・日常生活支援総合事業」は、介護保険法で定められている政策のひとつです。
正式名称は長いので「総合事業」「総合事業サービス」などとも呼ばれます。
日常生活を自立して送ることができているもしくは軽度の援助が必要な高齢者に対し、介護保険の保険者である市町村が中心となってその地域の実情に応じた支援サービス等を提供することにより、地域における高齢者の社会参加や自立支援をうながすとともに、要介護状態への移行を予防することを目指す取り組みになります。
約20年後に高齢化のピークを迎えるわが国では、この先もますます一人暮らしの高齢者や高齢者のみの世帯、また認知症の高齢者が増加することが想定されています。
そのような状況の中で、高齢になっても住み慣れた地域での生活を続けるためには、地域全体で高齢者を支えるとともに、高齢者自身も自らの持つ能力を最大限に生かして要介護状態になることを予防することが大切である、といった考え方に基づき、これを実践するための仕組みとしてこの「総合事業」が2014年から実施されています。

2.総合事業の具体的な内容は?

総合事業は、大きく分けると「一般介護予防事業」と「介護予防・生活支援サービス事業」の2つに分かれています。
一般介護予防事業は、65歳以上の全ての人(介護保険における第1号被保険者全員)が利用可能という位置づけになっています。
具体的な事業の内容は、それぞれの市町村が地域の特性やニーズに合わせて独自に構成するため、お住まいの自治体によりさまざま違いがありますが、一例としては以下のようなものがあります。
・個別相談…保健師による健康相談、栄養士による栄養相談、歯科衛生士による歯科相談 など
・健康講座…健康(運動、食事、お口の健康 等)や介護予防、認知症予防など、さまざまなテーマでの講座や教室の開催
・講師の派遣…地域のサークルなどの高齢者の活動の場に、希望するテーマに合った専門職(健康運動指導士、管理栄養士、歯科衛生士 等)を講師として派遣する
これらの市町村が提供する一般介護予防事業のサービスは利用料が無料となっています。
また、こういった行政が主体となって提供されるサービス以外に、一般介護予防事業として特に推進されているのが住民主体の「通いの場」の充実です。
「通いの場」というのは、いわゆるサークル活動や集いのサロンなど、定期的に高齢者が集まる場のことですが、その中で介護予防に関する活動を行っている市民グループや非営利団体に対して、助成金などの活動支援制度を実施している自治体も数多くあります。
介護予防活動そのものがメインの集まりもあれば、趣味のサークルなど主の活動は別に置きつつ一部の時間を介護予防の体操にあてる、あるいは茶話会として集まることが一人暮らし高齢者の見守りにつながっている、などさまざまな形態の「通いの場」が展開されています。
このような「通いの場」が推進されている理由は、社会参加や社会的役割を持つことが生きがいや介護予防につながると考えられているからです。
実際に、スポーツやボランティア活動、あるいは趣味活動のグループなど社会参加の割合が高い地域ほど、高齢者の転倒や認知症、うつのリスクが低い傾向がみられる、との調査結果も出ています。
また、近所づきあいや住民同士の交流が希薄になりがちな現代の地域社会、とりわけ都市部においては、公的サービスによる支援のみに頼るのではなく、住民主体の支援や地域での支え合いといった「互助」の体制づくりの充実をはかる目的もあるとされています。

一方、介護予防・生活支援サービス事業は、
①介護保険制度で要支援認定を受けた人
②65歳以上で、同事業の「基本チェックリスト」で基準を満たし事業対象者となった人
が受けられるサービスとなり、利用にあたっては「介護予防ケアプラン(介護予防サービス計画)」の作成が必要となります。
サービスの種類は「訪問型」「通所型」「その他」の3種類があります。
●訪問型サービス
自宅を訪問してもらい、掃除・洗濯・調理などの日常生活のうち、自力で行うことが難しい部分の支援を受けます。
利用者自身でできることが増やせるような支援が行われ、必要な場合は身体介護を受けることも可能です。
●通所型サービス
通所介護(デイサービス)施設に通って日常生活上の支援や、生活機能の維持向上のための機能訓練(体操や筋力トレーニングなど)が受けられるサービスや、市町村の保健センターなどで行われる運動機能向上や栄養改善のプログラムなどがあります。
●その他の生活支援サービス
栄養改善を目的とした配食サービス、地域住民のボランティア等による一人暮らし高齢者の見守りなど。
実際に提供されているサービスは市町村により違いがあります。
また、利用料も市町村ごとの設定となるため、地域によって金額に違いがあります。
介護保険サービスと違うのは、サービスの策定をするのが市町村であるという点と、サービスを提供するのがいわゆる介護サービス事業所以外の民間業者であったり、市町村が行う研修を受けた市民やボランティアによるサービスの場合もあるという点です。
また、こちらの事業でも「通いの場」における住民主体の支援に対しては助成などの活動支援がなされています。

3.総合事業のサービスを利用するには?

一般介護予防事業に関しては、お住まいの自治体のホームページや介護保険のガイドブックなどに、実施しているサービスや申し込み方法などが掲載されていることが多いので、見てみるとよいでしょう。
健康講座などは、広報紙などで開催の告知や受講者の募集案内が掲載されていたりもします。
介護予防・生活支援サービス事業の場合は、お住まいの地区を担当する「地域包括支援センター」が窓口となります。
要支援認定を受けずに利用を希望する場合は、まずはここで「基本チェックリスト」に沿って事業対象者の基準を満たすかの確認をする必要があります。
事業対象者となった場合、またはすでに要支援認定を受けている場合も、地域包括支援センターの担当者と「介護予防ケアプラン」を作成したうえで、利用するサービスを決定していくことになります。
なお、要支援認定を受けている人は、介護保険の介護予防サービスと併用することも可能です。

4.コロナ禍における介護予防

2020年以降の新型コロナウイルス感染症の流行は、高齢者にとっては外出自粛などに伴う心身機能の低下や地域とのつながりの希薄化といった深刻な問題と密接につながるものになっています。
感染すると重症化のリスクが高い高齢者にとって、もちろん感染予防はとても大切なことですが、コロナ禍が長期化するにつれ、感染防止に配慮したうえでの通いの場などの介護予防活動や、一人暮らし高齢者の見守りなどの取り組みを再開することが、要介護状態を予防するために必要と考えられるようになりました。
厚労省も、外出の機会が少ない中でも自宅で健康に過ごすための情報発信を行ったり、スマートフォンで利用できる「オンライン通いの場アプリ」をリリースするなど、コロナ禍での新たな介護予防対策も実施されています。
またそれぞれの地域においても、高齢者のデジタル機器への苦手意識にも配慮しながらオンライン開催を取り入れる、あるいは感染対策をしながら会場参加もできるなど、人と会うことでの感染への不安と、会わないことによる孤立感や心身の機能低下への不安どちらにも対応できる通いの場を目指した主体的な活動も多く見られるようになっています。

日本では、男女ともに平均寿命が80歳を超え、いかに「健康寿命」をより長くするかが重要とも言われています。
今回ご紹介したような総合事業サービスも上手に活用し、高齢になっても地域や社会とのつながりを持ちながら、できるかぎり長く健康で自立した生活を送れるとよいのではないかと思います。

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