介護にまつわるあれこれ12:介護保険と福祉用具

介護保険制度におけるサービスの中には、人による直接的な介護やケア以外のサービスもあります。
その一つが、「福祉用具」の貸与と販売です。
今回は、この福祉用具サービスについて解説していきます。

1.介護保険における福祉用具とは

そもそも「福祉用具」とは、高齢者に限らず、心身の機能が低下し日常生活に支障のある人の日常生活上の便宜を図るための用具や、機能訓練のための用具、または補装具のことを言います。
イメージしやすいものとしては、杖や車椅子、義肢などの装具、補聴器や眼鏡も福祉用具に含まれます。
ただし、これが介護保険における福祉用具となると、対象となる用具の範囲が少し狭くなります。
なぜなら、介護保険においては、「利用者の日常生活の便宜を図るための用具および機能訓練のための用具で、利用者がその居宅において自立した日常生活を営むことができるよう助けるもの」を介護保険の給付対象としているからです。
具体的にどんな用具が該当するのかは、のちほど詳しく説明します。

2.福祉用具に関する介護保険サービスとは

ではまず、福祉用具に関して、介護保険がどのように利用できるのかと言うと、対象となる福祉用具をレンタルもしくは購入した場合に、その費用が保険適用となるため、かかった費用のうち「自己負担割合(1~3割)」に応じた金額のみの一部自己負担で済むという内容になります。
このサービスを「福祉用具貸与」あるいは「特定福祉用具販売」と言い、訪問介護や通所介護などと並んで「居宅介護サービス」の中に位置付けられています。
制度としては貸与(レンタル)と販売(購入)がありますが、基本的には販売ではなく貸与が原則とされています。
これは、利用者の身体状況や要介護度の変化、あるいは福祉用具の機能の向上などに応じて、「適時適切な用具を利用者に提供できるように」という考え方に基づいたものです。
ただし、他人が使用したものを再利用するには心理的抵抗感が伴うもの(主に排泄や入浴関連のもの)や、使用によってもとの形態や品質が変化し再利用できないものなど、貸与にふさわしくない性質のものに関しては例外的に販売費用が保険給付の対象となっています。

3.介護保険が給付される福祉用具にはどんなものがあるの?

介護保険が適用される福祉用具の範囲は、以下のように規定されています。
①利用者の自立の促進または介助者の負担の軽減を図るもの
②利用者以外も使用する一般の生活用品ではなく、介護のために新たな価値付けを有するもの
    ⇒一般的なベッド等は対象外
③治療用など医療の観点から使用するものではなく、日常生活の場面で使用するもの
    ⇒医療機器(たとえば吸入器、吸引器等)は対象外
④在宅で使用するもの
⑤起居や移動等の基本動作の支援を目的とするものであり、身体の一部の欠損または低下した特定の機能を補完することを主たる目的とするものではないもの
    ⇒義手や義足、眼鏡等は対象外
⑥ある程度の経済的負担があり、給付対象となることにより利用促進が図られるもの
    ⇒一般的に低価格のもの(たとえば食事用の自助具など)は対象外
⑦取り付けに工事を伴わないもの(賃貸住宅でも支障なく利用できるもの)
このことをふまえ、対象となる具体的な福祉用具ならびにサービス内容をみていきたいと思います。

●福祉用具貸与/介護予防福祉用具貸与
サービスを利用できるのは要介護または要支援認定を受けた方になります(要支援認定の場合は「介護予防福祉用具貸与」として利用)が、要介護度によって利用できる福祉用具が異なります。
▶すべての要介護・要支援度で利用できる
  ・手すり(工事を伴わないもの)・スロープ(工事を伴わないもの)・歩行器 ・歩行補助つえ
▶要介護2~5で利用できる
  ・車いす  ・車いす付属品(クッション、電動補助装置等)
  ・特殊寝台  ・特殊寝台付属品(マットレス等)
  ・床ずれ防止用具(エアマット等) ・体位変換器  ・認知症老人徘徊感知機器
  ・移動用リフト(工事を伴わないもの)
▶要介護4・5で利用できる
  ・自動排泄処理装置
    ※尿のみを吸引するものはすべての要介護・要支援度で利用可
利用を希望する場合は、担当ケアマネジャーと自治体の指定を受けた「福祉用具貸与事業者」に相談のうえで、使用する用具を決定します。

●特定福祉用具販売/特定介護予防福祉用具販売
サービスを利用できるのは要介護または要支援認定を受けた方になります(要支援認定の場合は「特定介護予防福祉用具販売」として利用)。
対象となる福祉用具は以下のものとなっています。
  ・腰掛便座  ・自動排泄処理装置の交換部品  ・排泄予測支援機器
  ・入浴補助用具(入浴用いす、浴槽用手すり、浴槽内いす、入浴台、浴室内すのこ、浴槽内すのこ、入浴用介助ベルト) ・簡易浴槽  ・移動用リフトのつり具部分
こちらも、事前に担当ケアマネジャーと、お住まいの自治体が指定する「福祉用具販売事業者」に相談のうえで購入します。

4.福祉用具貸与や販売における費用負担はどうなっている?

貸与・販売いずれの場合も、各自に決められている自己負担割合(1~3割)に応じた金額を負担することは他の介護保険サービスと変わりません。
貸与の場合は上限額に関しても、他の介護保険サービス同様、要介護度ごとに決められている月ごとの「支給限度額」が上限となりますので、貸与の費用と他のサービスの利用費用とを合わせたときに、支給限度額を超えた部分が全額自己負担となります。
一方、販売の場合は、上限額が別に定められています。
利用者一人につき1年間(4月~翌3月)で10万円が上限となっており、その範囲内で実際の購入費用の1~3割を自己負担することになります。
また、支払い方法も他のサービスとは異なり、基本的にいったん全額を負担する「償還払い」となっています。(一部の事業者では「受領委任払い」が利用できることもあります。)
・償還払い…いったん購入費用の全額を販売事業者に支払ってから、お住まいの自治体の介護保険課に領収証などを添えて申請を行うことで、保険給付分(7~9割)が後から利用者に支給されます。
・受領委任払い…利用者は販売事業者に自己負担分(1~3割)のみを支払い、保険給付分は自治体から事業者に直接支払われます。
1年間で上限の10万円を超えた部分に関しては、全額自己負担となります。
また、過去に同サービスを利用して購入した品目の再購入や、指定販売事業者以外からの購入も保険適用外となりますので注意が必要です。

なお、事業者における貸与や販売の価格設定に関して、一律の公定価格といったものは定められてはおらず、同じ商品でも事業者によって価格が異なることがありますが、これは市場の価格競争を通じて適切な価格による貸与や販売が行われるようにと考えられているためです。
しかしながら不当な価格のつり上げ等を防ぐため、国は、利用の多い貸与については商品ごとに価格の全国平均を公表するとともに、その平均をもとにした貸与価格の上限を設定するなどの対策を実施しています。
ちなみに各事業者は、商品の本体価格のほか、運搬や保守点検等の費用も勘案したうえで貸与価格を設定していますが、貸与にあたっては、自身の設定価格と全国平均価格の双方を利用者に示すとともに、機能や価格の異なる複数の商品を貸与の候補として提示し、情報提供をしなければならないことにもなっています。

5.福祉用具貸与・販売事業者と福祉用具専門相談員とは

介護保険における福祉用具貸与や特定福祉用具販売のサービスを利用するには、お住まいの自治体の指定を受けた貸与もしくは販売事業者を利用する必要があります。
指定外の事業者からのレンタルや購入は、保険適用外となってしまいますので注意しましょう。
具体的にはどのような指定事業者があるのかと言うと、訪問介護など他の居宅介護サービスを行っている事業所が貸与や販売を取り扱っている場合もありますし、福祉用具の専門店、民間の寝具メーカーやレンタル事業を展開する会社の営業所などが指定事業者となっている場合もあります。
指定事業者の一覧は各自治体のホームページや介護ガイドブックなどに掲載されています。

そして、指定事業者に配置が義務付けられているのが「福祉用具専門相談員」です。
福祉用具専門相談員は、介護等が必要な高齢者が福祉用具を利用するにあたり、本人の希望や心身の状況、生活環境などをふまえて専門的知識に基づいた福祉用具を選定し、自立支援の観点から使用方法等を含めて適合・助言を行う専門職とされており、以下のような資格保持者等が福祉用具専門相談員となることができます。
・保健師 ・看護師 ・准看護師 ・理学療法士    ・作業療法士
・社会福祉士    ・介護福祉士    ・義肢装具士
・都道府県知事が指定する福祉用具専門相談員指定講習の修了者
実際には、指定講習の修了者が全体の8割程度を占めています。
福祉用具専門相談員は、ケアマネジャーにより作成されている「ケアプラン(介護サービス計画)」および利用者本人やその家族からの情報をもとに、福祉用具を使用する目標やその目標を達成するための具体的なサービス内容、使用用具の選定理由や使用時の注意事項等が記載された「福祉用具サービス(貸与・販売)計画書」を利用者ごとに必ず作成し、利用者に内容を説明する必要があります。
利用者はこの計画書の内容に同意した上で福祉用具の使用を開始することになり、決定した計画書は担当ケアマネジャーとも共有されます。
さらに貸与の場合、福祉用具専門相談員は定期的に使用状況や目標の達成状況の把握(モニタリング)を行い、使用方法の指導や修理等のメンテンナンスを実施したり、必要に応じてサービス計画の修正や変更も行っていきます。

人的な介護サービスに比べ、あまり細かいことが知られていないであろう介護保険における福祉用具のサービスですが、実は要支援段階や比較的軽度の要介護度のうちから利用できる用具もあること、また利用にあたっては福祉用具の専門家に個別に相談できること、使用開始後も継続的なサポートを受けられることなど、サービスの要点がおわかりいただけたかと思います。
実際に、福祉用具貸与の利用数は年々増加しています。
こういったサービスがあるということをあらかじめ知っておくことで、必要なときにスムーズに福祉用具を生活に導入することができ、それが利用者本人の自立支援や介護者の負担軽減にも効果を発揮するのではないかと思います。

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