介護にまつわるあれこれ3:ADLって何?

皆さんは「ADL」という言葉を聞いたことがありますか?
ADLは、医療や介護にまつわる場面では、よく見聞きされる用語の一つです。
ここでは、介護の場面で欠かせないワードであるADLについて、解説していきたいと思います。

1.ADL(日常生活動作)とは

ADLは Activities of Daily Living の頭文字をとった略称で「エーディーエル」と発音します。
日本語に訳すと「日常生活動作」という意味になり、人が日常生活を送るために必要な基本的な動作のことをさします。
もともと古くは、機能訓練(リハビリテーション)の分野で使われていた用語ですが、今では広く保健医療福祉の領域において、その人の生活の自立度の判定や、病後の機能回復段階の評価等に用いられています。
介護保険制度の中においても、要介護認定を受ける際の基本調査項目の中にはADLの自立度を確認する項目が多数ありますし、介護保険サービスの中でリハビリテーションを受けるような場合にも、どの部分のADLを向上または維持するためにどういったリハビリを行うか、というような観点でリハビリの計画が立てられるなど、ADLは介護のいろいろな場面にも密接にかかわってきます。

2.BADLとIADLを知ろう

ADLには、「基本的日常生活動作(BADL:basic ADL)」と「手段的日常生活動作(IADL:instrumental ADL)」があります。
BADLは、人が日常生活を送るためには欠かせない基本的な身の回りの動作や移動の動作のことを言い、以下のような動作があります。

・食事…食べたり飲んだりするために必要な動作、えん下や咀嚼等の状況
・排泄…トイレでの一連の動作、排尿や排便のコントロール状況
・入浴…入浴に必要な一連の動作、身体の清潔を保つための動作
・更衣…衣服や靴などの着脱の動作
・整容…身だしなみを整えるための動作(洗面、歯みがき、整髪、ひげ剃り等)
・移動…歩行や階段の上り下りの動作、車椅子の操作に関する動作
・移乗…ベッドから椅子や車椅子への乗り移りの動作(起き上がり、立ち上がり、立位・座位の保持)

一方IADLは、BADLの次の段階にある、以下のようなより複雑な日常生活上の動作のことを言います。

・掃除 ・洗濯 ・料理 ・買い物 ・電話対応 ・服薬管理 ・財産管理 ・乗り物の利用
・予定調整 ・趣味活動 等

ADLの低下では、まずIADLの低下が起こってから、次にBADLの低下が起こるとされています。
要介護認定においても、BADLとIADLどちらも自立していれば「非該当(自立)」、BADLはほぼ問題ないがIADLに何らかの支援が必要だと「要支援」、IADLに加えBADLにも何らかの助け(=介護)が必要な場合は「要介護」と判定される、というおおまかな指標が示されています。

3.介護分野におけるADLの活用

先ほども述べましたが、ADLは様々な場面でその人の生活の自立度の判定や、機能回復の評価などに用いられています。
例えば、要介護認定の際のADLに関する調査項目としては、以下のようなものがあります。

▪能力(できる/できない)で評価する項目
・寝返り ・起き上がり ・座位保持 ・両足での立位保持 ・歩行 ・立ち上がり ・片足での立位
・えん下 ・意思の伝達 ・日常の意思決定   ほか

▪介助の方法(介助が行われている/いない)で評価する項目
・洗身 ・爪切り ・移乗 ・移動 ・食事摂取 ・排尿 ・排便 ・口腔清潔 ・洗顔 ・整髪
・衣服の着脱 ・薬の内服 ・金銭の管理 ・買い物 ・簡単な調理   ほか

▪有無(ある/ない)で評価する項目
・外出頻度 ・昼夜の逆転    ほか

また近年では、地域包括ケアシステムの一環として市町村が行っている「介護予防・生活支援サービス事業」においても利用希望者の生活自立度を評価するためにADLが活用されています。
ちなみに「介護予防・生活支援サービス事業」とは、より多くの高齢者が要介護状態になることを予防するための取り組みであり、要介護認定を受けていない場合、あるいは認定されるほど著しいADLの低下がない場合にも、日常生活に何らかの支援が必要と判断されれば訪問による家事援助や、通所による運動機能向上プログラム等の有料サービスを受けることができる、というものです。
この、支援が必要かどうかの判断を、認知能力や身体機能の低下の有無とともに、ADL(特にIADL)の自立度を問うチェックリストを用いて行っている市町村もあるというわけです。

4.ADLを維持するために

ADLが低下すると、日常生活において自立してできることが少なくなり、要介護度は上がっていくことになります。
高齢者においては、高齢になればなるほど体力の低下や持病による心身への影響が大きくなりがちな中で、いかにADLを低下させずに維持し、要介護状態になることを予防するか(=介護予防)が、長く元気で過ごせることにつながるのです。
では、ADLを低下させない、維持するためにはどのようなことをすればよいのでしょうか。
先ほども述べたように、IADLはBADLに先行して低下し、BADLの低下は要介護状態の入り口となります。
つまり、現時点でIADL・BADLともに自立している、あるいはIADLの一部にのみやや低下がみられるといった場合は、介護予防としてADLの現状維持につとめることが重要です。
特にIADLには積極的に社会とのかかわりを持ったり、活動的になって外に出ていくことにより維持できる部分も多く、そうして一定の活動量や身体を動かすことが、さらには身体そのものの機能や筋力等の維持や向上にもなり、BADLの低下を防ぐことにもつながります。
友人と旅行をする、趣味仲間と連絡を取り予定を立てて活動する、金銭管理とそれに伴う外出を自分で行う、散歩など適度な運動の習慣づくりなど、一人一人の状況に応じてできることを見つけて行動していくと良いでしょう。
できるだけ、家にこもりがちになったり家族に頼りがちになったりせずに、自分でできることは自分で行っていくというような意識を持つこと、家族の側も過剰に手を貸さずに見守ることなどが大切です。
楽しみや役割があるということが、できるだけ長く元気に過ごしたいという意欲にもつながります。
先ほど触れた市町村の「介護予防・生活支援サービス事業」をはじめ、民間のものも含めた援助サービスや運動プログラム、サークル活動などを活用するのも良いと思います。
また、すでに要介護認定を受けられている方であれば、ケアプランの中にぜひ機能訓練を組み込むなどして、ADLの維持、可能であれば向上を目標に取り組んでみてください。
移動時の杖や車椅子、食事用の自助具、吸水機能付きの下着など、いわゆる福祉用具を活用することによって自立度が向上する場合もあります。
さらにデイケアなどで家族以外の人と交流したり、レクリエーションに参加して楽しく過ごしたり、あるいは家の中やベッドの上でもご本人が楽しんでできること、笑顔になれることを生活の中に少しでも取り入れて、生活に張り合いが感じられるような日々を送れるようにすることも大切かと思います。

今回はADLという言葉の意味、そして高齢者の自立におけるADLの維持の重要性についてまとめました。
若いうちや健康なうちは当たり前のように何気なく送っている日々の生活も、ADLの自立があってこそのものです。
ご自身やご家族の老後や介護にかかわったり考えたりするときに、ぜひADLについても意識していただけるとより良い介護や老後につながっていくのではないかと思います。

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