高齢者医療福祉の今とこれから2:在宅医療の推進政策が進行中

皆さんは、これからの日本が、在宅での医療や介護の充実を目指していることをご存じですか?
これは、対高齢者に限ったことではなく、今日本は、子供からお年寄りまで、「できる限り、住み慣れた地域で必要な医療・介護サービスを受けつつ、安心して自分らしい生活を実現できる社会」を目指しているのです。
今回は、このような国としての方向性の中で、これからの高齢者の医療や介護が一体どうなっていくのか、私たちにどのような影響があるのかについて、触れていきたいと思います。

1.背景

国が在宅医療・介護を推進する背景には当然ながら、我が国の総人口の減少と高齢化の進行があります。
日本の総人口は2010年をピークに減少し続けていますが、一方で65歳以上の高齢者の数は増え続けており、20年後の2042年に増加のピークを迎える予測です。
その後、高齢者数の著増傾向は落ち着くものの、2065年には総人口が9,000万人を下回るまでに減少するのに伴い、65歳以上人口が全人口に占める割合は約38%にものぼる見込みとされています。
このような人口動態の中で、高齢者における医療・介護のニーズは当然増えることが予想されますが、一方で18~64歳までのいわゆる労働者人口は減少するため、これまでどおりの病院等施設中心の医療提供体制のままでは、施設不足、人手不足に陥りかねません。
そこでまず国が打ち出したのが、「地域医療構想」です。
これは、今後の人口減少や高齢化に伴う医療ニーズの質・量の変化や労働力人口の減少を見据え、質の高い医療を効率的に提供できる新たな体制を地域ごとの特性に応じて構築しよう、というもので、具体的には、将来的にその地域で必要な医療ニーズを推計したうえで、医療機関をその役割(=医療機能)によって従来よりも細分化し、さらに各医療機関が連携を強化して地域医療を支えていこうという内容になります。
この構想の中で、医療機関の役割である「医療機能」は「高度急性期」「急性期」「回復期」「慢性期」の4種類に分けられるのですが、このうちの「回復期」機能を持つ医療機関の主な役割は、病状が落ち着いた患者に対して、「在宅復帰に向けた医療やリハビリテーションを提供すること」となっています。
この地域医療構想を実現し、各医療機能がしっかりと役割を果たすためには、その受け皿として、「回復期」医療機関から退院した人々を受け入れる在宅医療・介護の分野のさらなる充実が必要不可欠であるのです。
また、国民自身の在宅医療・介護へのニーズも高まっていると考えられており、2018年に厚生労働省が行った意識調査の結果でも、「年をとって生活したい場所」に国民の6割以上が「自宅」と回答しています。
また「最期を迎える時に生活したい場所」についても、約3割が「自宅」を希望すると回答していますが、
その一方で人口動態調査によると現状ではまだまだ病院等で亡くなる割合が高く、2019年に実際に自宅で亡くなった方はわずか13.6%にとどまっており、こういった国民のニーズに応えるためにも今後は「看取り」も含めた在宅医療・介護の充実が目指されているというわけなのです。

2.在宅医療を充実させるための課題

在宅医療・介護のさらなる充実を目指す中で、課題とされたのが、1つはこれまで不十分だった医療と介護の連携、そしてもう1つは在宅医療・介護を担う機関の不足という問題です。
人口動態上、今後は65歳以上の夫婦のみや単身者だけのいわゆる「高齢者のみ世帯」が増加することが予測されていますし、高齢者が増えれば認知症高齢者の割合も増えていきます。
こういった高齢者を含めすべて世代の人々が、医療や介護が必要になっても住み慣れた地域での暮らしを継続でき、また病気になっても職場や地域生活への早期復帰ができるよう、入院施設から在宅療養へのスムーズな移行のための連携強化や、十分な在宅支援が可能なだけの関係機関の増設など、在宅医療・介護の環境を整えていく必要があるのです。
こうした課題から国は、医療・介護の関係機関が連携し、多職種の協働により在宅医療・介護を一体的に提供できる体制を構築する「在宅医療・介護連携の推進」を掲げました。
この取り組みは、「住み慣れた地域で、一体的な医療・介護サービスを受けられる」ための体制づくりになりますので、介護保険の保険者(運営者)でもあり、地域を担う市町村が主体となって行われます。
この取り組みのうち、高齢者に対して行われているのが「地域包括ケアシステム」と呼ばれるものです。

3.地域包括ケアシステムとは

国は2025年をめどに、「重度の要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、医療・介護・予防・住まい・生活支援が包括的に確保される体制」の構築を実現することを目指しています。
この体制こそが「地域包括ケアシステム」であり、これからの介護の姿、介護の将来像とも言われています。
特徴的なのは、おおむね30分以内に必要なサービスが提供されるよう、公立中学校の学区域を単位としたエリア(=日常生活圏域)がサービス提供の基本として想定されていることではないかと思います。
そして、各エリアでの中核的な役割を担うのが、このシステムを構築するにあたって新たに地域ごとに設置された「地域包括支援センター」です。
地域包括支援センターは、地域の高齢者の様々な問題に対応する総合窓口として、保健師・介護福祉士・ケアマネジャーなどの専門職がチームとなり、高齢者の支援にあたる拠点となります。
皆さんのお住まいの地域でも、日常生活圏域(中学校区)ごとに1つ、地域包括支援センターが設置されており、住んでいる地区ごとに担当のセンターが決まっているかと思います。
また、この日常生活圏域単位で提供されている新しい介護保険サービスが、「地域密着型サービス」と呼ばれるもので、住み慣れた地域で多様な介護保険サービスを受けられるよう、市町村がサービス拠点を整備し、利用に関しても当該施設等の所在地の市町村民の利用を基本としています。
「地域密着型サービス」では、小規模(少人数)でアットホームな通所施設や入所施設、認知症に対応したデイサービスやグループホーム等の施設をはじめ、通所サービスを中心に訪問や短期入所を組み合わせた多機能型サービス、重度の要介護状態にも対応する定期巡回・24時間対応型訪問サービスなど、地域密着ならではの特徴あるサービスが提供されています。

4.誰もがより長く元気に活躍できる社会の実現をめざして

地域包括ケアシステムの構成要素のうち「住まい」や「生活支援」といった側面についても、「介護」「医療」「予防」といった専門的サービスを適切に提供するための前提としての充実がはかられています。
この先、高齢者のみ世帯の増加とともに軽度の支援を必要とする高齢者も増加する中、これからの高齢者向け住まいのあり方としては、サービス付き高齢者向け住宅のような自宅と介護施設の中間的な住まい方がより一般的となっていくことが考えられます。
こうした民間の運営による高齢者向け住宅や有料老人ホームの質を確保するため、行政によるチェック機能をより強化していくとされており、これも重要な取り組みの一つと言えます。
また、生活支援の面では、公的サービスだけではなく、ボランティア・NPO・自治会・老人クラブなどのいわゆる「互助」の部分の意識的な強化も重要であるとされています。
ボランティア・NPO・民間企業など、多様な主体が住まいや生活支援のサービスを提供し、それを高齢者が利用することによって高齢者の社会参加や社会的役割を持つことにつながり、さらには生きがいや介護予防に結びついていくと考えられているのです。
そのための地域づくりや環境整備を、市町村が中心となって取り組むことで、誰もがより長く元気に活躍できる社会の実現が目指されています。

これからは、病気になったり高齢で介護が必要になったら病院や施設に入って過ごす、というのが決して当たり前ではない時代を迎えることになる、というのがおわかりいただけたかと思います。
そのために、国をはじめ行政側も様々な新しい制度や取り組みを始めていますが、私たちも、それを知り、どのようなサービスがあるのかを理解し、必要に応じて自ら上手に利用していくことが必要となってきます。
また、高齢者の住まいのあり方や、就業等の社会参加についても、ときには既存の価値観にとらわれず、柔軟に考えていくことも必要になってくるかもしれません。
そして何より、ご自身やご家族ができるだけ長く、健康で自立した生活が送れるよう、一人一人が早い段階から少しずつでも、疾病予防や介護予防に取り組んでいくこともとても大切です。

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