80歳の母親と50歳の娘の高齢介護~実家で面倒を見る決意をした娘の話~

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「お母さん、来たよ」 「ああミチコ、ちょうどよかったわ。これからお買い物に行くから留守番を頼めるかしら」
2週間に1回ほどのペースで訪れる娘のミチコは、今年で80才を迎える母親の様子を伺いに今日も実家を訪れる。
「いいけど…私が行ってこようか?」
何を買うの?と聞くと、私が外に出たいから気にしないでと断られてしまった。
幸いにもスーパーはここから歩いて10分の距離にあるので、年齢のわりに体力のある母親は気軽に行ける距離だろう。
「わかった、気を付けてね」
今後のことを考えるとそろそろ同居が必要なんだろうなとは思いながらも、元気な姿を見るとまだいいか、という気持ちになってしまう。
また今度話せばいいか…
父親が亡くなり独り身ながらものんびり暮らす母と、自営業でピアノの講師をしている娘との親子関係は、80才と50才というお互い高齢ながらも上手くまわっている…はずだった。

数か月後___
「お母さん、今日も来たわよ」
いつものように家を訪れると、玄関口に詰まれたいくつものダンボールが目に入った。
「これ…2週間前も何個か置いてあったのを見たけど、増えすぎじゃない?」
ダンボールの表紙を見ると、“あなたのお肌を若返らせます”と書かれたサプリや、“腸内菌の100%活性化”などと胡散臭い謳い文句が書かれた商品ばかり。
どうやら全て通販で購入した健康食品のようだ。
しかも、この場所に少なくとも2週間は未開封のまま放置されていることになる。
「やばいやつじゃないでしょうね」
「大丈夫よ、全部テレビで紹介されてたものだから」
持病もなく薬も飲んでいない母親。
今まで健康食品なんて馬鹿らしいとさえ言っていた母親が、急にこんなものを買うようになってしまったなんて…
「とりあえず、ちょっとリビングで話しましょう」
そう言ってミチコがリビングへと足を進めると、固定電話のそばに置かれた封筒に目が行った。
「これ…ねぇ、これって税金の督促状じゃない。払ってなかったの!?」
税金の支払期限が過ぎるとやってくるこの封筒は、きちんとお金の管理がされてきたこの家では見たことがなかった。
それほど、今までの母親はしっかりした人だったのだ。
しかし、今は問い詰めても「ああ…そうなのよ、なんか来ちゃったみたいでね」と身の入ってない返事が返ってくるばかり。
明らかに母の様子がおかしく、言動に違和感を覚えた。
これってもしかして認知症なんじゃ…
「お母さん、一回病院に行こうか」

「娘さんの言う通り、認知症の進行が進んでいるように感じます」
ただ、お母さまの場合はまだ自分の記憶が曖昧な部分があると自負しておられるようなので、心苦しい思いをしておられるのではないでしょうか。
と、精神科医の口から悲しい真実を告げられた。
「お母さん、もっと早くに言ってくれたらよかったのに」
「あんたに心配かけたくなかったんだよ。こんな年だからいつ手間がかかるようになるかわからないんだ、だから少しでも遅いほうがいいだろうと思ってね」
「そんな…」
結局、私が同居の話を早くに提案していれば、母親は認知症にかかることはなかったのだろうか。
「まぁ幸い、まだ病院に来てくださるタイミングが早かったので、今後は心のケアと認知症ケアを同時に進めていくことができますよ」
「ありがとうございます。これからお世話になります」
医師いわく、自負の念が強くなると認知症の進行と共にうつ病も発症しやすいのだという。
そうなる前で本当によかった。
「とりあえず、月に1回お薬を出すのでそのための通院をしてください。あと色々と施設やホームヘルパーさんを探してくれるケアマネジャーも紹介しますね」

その後、これからの生活をどうしていくかを母親と話し合った。
「できれば一緒に暮らせると嬉しいわ」
その母の一言で、私は実家に戻ることを決意した。
自営業で行っていたピアノの講師は自宅でできる仕事なので、ある程度生活の融通が利く。
おまけに、ピアノの音や若い生徒さんの声が聞こえるようになると母親も嬉しいだろうと考えた。
平日の日中は仕事が忙しくて母親の面倒を見る時間がないものの、まだ身の回りのことは自分でしたいと言ってくれたので、週に1回ヘルパーさんがお手伝いも兼ねて来てくれることに。
「あなたが家に帰って来てくれてよかったよ、ほんとにありがとうね」
「お母さんが元気でいてくれるならそれでいいよ」
これから先、まだまだ元気でいてほしい。
私も母も独り身だから、できる限りのことはしてあげたいと思うのだった___

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決意をした娘の話~