老老介護の現実と家族のサポート~短期施設へ入居する頑固な父親の話~

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「おじいさん、今日はあーちゃんが来てくれる日なので早めに畑仕事を終えてくださいね」
「ああ、わかった。16時には帰るようにするよ」
テーブルの上に並んだお昼ご飯をつまみながら、おじいさんはもうそんな日かとカレンダーを見る。
月に2回、木曜日になると娘のカズヨと孫のアヤが、高齢の2人暮らしを心配して交代で様子を見に来てくれるのだ。
「車で2時間もかかるんですから、申し訳ないわねぇ」
「わしらは年なんだから仕方ない、それよりお寺さんにまた来てもらうように電話しといてくれ」
「あら、仏壇のお経なら2週間前にあげてもらったばかりですよ」
「あ…そうだったな。じゃあ午後も行ってくる」
「はい、行ってらっしゃい」

___「ねぇ、おじいちゃんさすがに遅くない?」
「そうねぇ…」
17時頃に来た孫のアヤと一緒に夕飯の支度をしていたのだが、16時に帰ると言っていたおじいさんが一向に帰ってこない。
時計の針は18時前を指している。
言っていた時間よりも2時間遅れているうえに、携帯への連絡もつながらないときた。
「ちょっと私、心配だから探してくるね!」
そう言って飛び出した孫を見て不安な気持ちが膨らみ、娘のカズヨにも一応連絡を入れることにした。
プルルル…
『もしもし、母さんどうしたの?』
「遅くにごめんね。今あーちゃんが来てくれてるんだけど、おじいさんが畑から帰ってこなくて探してもらってるの…心配だからあなたも来てくれないかしら」___

それから2時間後、おじいさんは乗っていった軽トラックを置き去りにした状態で、畑から数キロ離れた山のふもとで発見された。
幸いにも外傷はなく無事家へと帰ってきたが、意識があやふやで誰もが認知症を疑わざるを得なかった。
「おじいさん、やっぱり認知症だったみたい。そこまで進行が進んでるわけじゃなさそうだけど、あんまり一人にはしないほうがいいって言われたわ…」
たまにご飯を食べたのを忘れたりお寺さんの訪問を忘れたりしてたから、何個か腑に落ちるることがあった、とも告白してくれた。
『そう…これからどうしようかしらね』
「ひとまず私が元気なうちは面倒を見るわ。カズヨは今まで通り2週間に一度、来てもらえると嬉しいわね」
そんな会話を電話越しにして、その日は終わりになった。
しかし翌日、今度はおじいさんから驚きの連絡が入った。
「おばあさんが今朝洗い場で足をすべらせてな…動けないって言うから病院へ行ったら大腿骨骨折で2か月ほど入院が必要だと言われたんだ」
今病院で入院の手続きをしてきたところだ、と告げる。
『ええっ、母さん大丈夫なの!?ひとまず仕事が終わったらすぐにそっちへ行くから、父さんは家にいてちょうだいね』
「ああ…すまないな。世話をかける」

それから数時間後、駆けつけてくれた娘に誘われるがまま、車へと乗り込んだ。
「これからのことなんだけど、私もアヤも仕事があるからとりあえず地域包括支援センターに行こうかと思うの」
「なんだそこは」
「簡単にいえば高齢者向けの介護相談窓口よ。施設の利用やヘルパーさんの手配なんかをお願いできるんですって」
「介護施設か…ばあさんはわしがそこに入るのを望むだろうか」
いつもは気丈で頑固な父だけど、さすがに認知症が発覚したばかりなのでこたえているのだろう。
気を落とす父の肩をパンッと叩き、活を入れる。
「昨日は母さん、電話越しだけど元気なうちは私が面倒を見るっていってわ。それにさっき電話したけどお父さんのこと、すごく心配してたから大丈夫よ」
すぐに元気になって帰ってくるわ、と伝えると、力なく「ああ」と答えた。
ひとまず、短期で入れてもらえる施設もあると聞く。
できれば母親が退院するまではそこでお世話になってほしいということを伝えると、少し表情を曇らせはしたがすんなりと頷いてくれた。
「なんだか以外ね、もっと渋ると思ってたわ」
「頑固なのは自覚しとる。何事も限度が大事だ」
まだまだ認知症とは思えない口ぶりに、思わず笑みがこぼれる。
「認知症もこれ以上ひどくならないように対策を一緒にしていこうね、父さん」

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頑固な父親の話~