~何度も名前を呼ばれている声がする~一人になった父の起こしたご近所トラブルの話

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「あの…仙台町内会のものですけど、ヨシオさんが起こされているご近所トラブルのことでお話がありまして…」

母親が一年前に病気で亡くなって以来、この家には父親が一人暮らしているだけだった。
いつもは東京に住んでいるうえに、仕事と家庭のことで忙しいので中々会いに来られていなかったが、今日はたまたま来ることができた。。
実家の電話が鳴り父の代わりに出ると、娘だと確認した町内会の人は耳を疑うことを話しはじめた。
「ここ最近ご近所さんから何件かクレームが来てます。内容というのがですね、ご近所の方いわく、ヨシオさんが“わしの名前をしつこく呼ぶな” “言いたいことがあるなら直接言え”といったことを家まで行って言うそうなんですよ」
最初はご近所さんの気にしすぎだと思って気に留めていなかったんですが、立て続けに三件来たんです。
と、さすがに見過ごせなくなった旨を伝えるべく、今回電話をしてきたらしい。
「ヨシオさんは朗らかな方だから、何か周囲に対して思うところがあったのではと…意見を聞かせていただこうと思ってね」 「そうなんですね。私は母が亡くなった今、仙台のこの家に帰ってくることはほとんどないんです。だからそういった事実があることを知らなくて…すみません、この後すぐ父に確認してみます」
と電話越しに深々と頭を下げると町内会の方もわかってくれたようで、ひとまず電話を切ってもらうことができた。
「どういうことなのよ…何にも聞いてないわ」
私は何が事実かわからない状況で、ただ父が帰ってくるのを頭を抱えて待つしかなかった。

___「ただいまぁ」
「ちょっと、お父さん。ご近所からクレームが入ってるって町内会の人から連絡来たんだけど、どういうことなのか説明してくれない?」
「なんのことだよ」
「とぼけないで、“わしの名前をしつこく呼ぶな”とか言って家に乗り込んでいってるそうじゃない」
先ほど聞いたことをひとまずそのまま伝えると、父は悪びれもなく「本当のことだ」と呟いた。
確かに一人のご近所さんから言われているなら双方どちらが悪いかは状況を見て判断する必要があるが、三人から同じことを言われているようじゃこちらに非があるのは目に見えている。
「と、とりあえずお父さんがご近所さんとトラブルになってることは間違いないから、私話聞いてくる」
「そんな必要はない、あいつらが呼ぶのは事実なんだ」
「話を聞かないとわからないでしょう!」
大人しく家で待ってて、と伝えると、私は急いで前の家へと向かった。

それからさらにわかったことは、父の起こしたトラブルは今回限りではなかったということ。
今まで母を亡くしたショックから気が参っているんだと思っていたそうだが、さすがに度が過ぎると町内会へ伝えたということ。
しかも、数日前には夫婦で一緒に暮らしておられるお宅へ乗り込み、奥さまに怒鳴りつけたという話を聞いてぞっとした。
日付やその時の様子を明確に伝えてくれるご近所さんが嘘を付いている様子は明らかになく、私はただただ現実を受け止めるしかなかった。
「一度、病院に行かれてみてはいかがでしょうか」
「はい、そうします…ご迷惑をおかけして本当に申し訳ありません」

___そこから私と父はすぐに総合病院へ向かい、医師から診察を受けた。
「これらは全て精神症状の一つです」
「そんな…父が、精神病に…」
「奥さまを亡くしたショックから来ている部分が大きいかと…どうしますか?ひとまず様子見で入院してもらうこともできますよ」
そう言われれば、私は頷くしかなかった。
東京で暮らしている今、突然仙台の実家に帰ることは難しい。
「よろしく、お願いします…」
隣に座る父を見ると、同じく愕然としていようだった。
私が放置してしまったのがいけなかったのだろうか。
もっと気にかけていれば、こんなことにはならずに済んだのだろうか。
これが母を亡くして一人で生きてきた父の成れの果てなのだろうか。
これから先、父が亡くなるそのときまで二人で過ごしていくしかないのだろうか。
「これからどうしよう。お母さん…」
真っ暗になってしまった未来に、これから待ち受ける苦労の滲む未来に、私の心は不安で押しつぶされそうになるのだった。

~何度も名前を
呼ばれている声がする~
一人になった父の起こした
ご近所トラブルの話