~依存症の怖さ~心が弱く、頼ることを知らなかった母の話

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「おい母さん!?しっかりしろ、目を開けろって!!」
来年付き合っていた彼女との結婚が決まったことを母へ報告しようと連絡をしたが、返事がなかった。
メールも電話もだ。
俺は18歳の頃、高校卒業と同時に家を出てからなんとなく、女手1つで育ててくれた母親とは疎遠になっていた。
仲が特別悪かったわけじゃない、連絡も一応交わしている。
ただ、若気の至りで喧嘩をして以来、なんとなく会うのが気まずくなっていたのが長引いてしまって今に至っていた。
今日は連絡がつながらなかったことを2つ年下の妹に相談したところ、「私は仕事で行けないので代わりに様子を見てきてくれ」と言われたのだった。
「き、救急車…!!」
息はありそうだが呼びかけへの反応がない母を見て、震える手でスマホを持った。

「お、お母さんは!?」
あれから救急隊の人に来てもらい、近くの総合病院へと搬送してもらった。
妹にも連絡すると、すぐに仕事を切り上げて駆けつけてくれた。
「お母さまはご無事です。処置が終わりましたので、少しお話を伺いたいのですがよろしいでしょうか?」
「わかりました」
母にどんなことが起こってしまったのか不安を隠せないでいる俺と、ハンカチで汗を拭いながら頷く妹。
担当してくれた医師に促されるまま診察室へと入った。
「今回倒れられた原因は脳梗塞です。しかし、この脳梗塞は糖尿病による原因だとわかりました。簡単にお伝えすると食生活の乱れですね、何か心当たりはございますか?」
「食生活…母は今も働きに出ていて食生活はきっちりしていると思っていました、私は近くに住居を移したのですが、家に上げてくれたときも普通に料理を振舞っていてくれていました…先月のことです」
目に涙を浮かべながら心当たりがないことを話す妹を横目に、俺は実家へ行ってあるものを見たことを思い出した。
「お酒の、焼酎の4Lペットボトルがテーブルの上に3本とチョコレートの袋が大量にあるのは見かけました…」
「なるほど。実は運ばれてきた際にアルコールの匂いがしたので、急性アルコール中毒ではないかと胃洗浄も行ったのです。すると胃の中にはお酒とチョコレートしか入っていないことがわかりました」
長年の経験からですが、恐らくまともな食事は長い間取っていなかったのではないかと思います。
と憶測を話してくれる先生に、俺と妹は衝撃を隠せないでいた。

「アルコール依存症ってことでしょうか?」
「はい、はっきりと断言はまだできませんが、恐らく…」
「脳梗塞の後遺症は大丈夫なんでしょうか?」
「それについては問題ありません。ただ、今後同じように1人で暮らすとなると、また命の危険が訪れかねないのでご家族さまでの協力が必要になりますね」
それはつまり“介護”を意味する。
母は今年で65歳、まだ65歳は介護の必要ない世代だと思い込んでいた。
なんせ日本の平均寿命は年々上がっているのだから…
俺は来年から彼女との生活があるので、母の健康管理をしながら暮らしていくのは難しいと判断した。
妹も母親の健康管理は難しいようだった。
「ご家族さまが難しいようでしたら、施設に入れられるのはどうでしょう。今は比較的介護のレベルが高くない方でも入れるところはたくさんありますから」

__そこから話はとんとん拍子のように進んでいき、母は施設に入ることを同意してくれた。
というのも、どう説明しようか悩んでいたことを汲んでか知らずか、母親自らが施設に行くよう望んだのだった。
「あんたたちには迷惑をかけちゃいけないと思って、ずっと気丈に振舞ってたの」
気が付いたらお酒とチョコレートが止められなくなっちゃって…と苦笑する母に、俺は後悔した。
もっと早くに寄り添ってあげていれば、こんなことにはならずに済んだでのはないかと。
しかし、過ぎたことを悔やんでも仕方がない。

俺は結婚を期に、今まで避けてきた母親ともう一度向き合うことを密かに決意するのだった_

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